FRENSスタッフ

2019年11月8日

LGBTの子どもたちが置かれている状況とは?『小野アンリインタビュー』①

最終更新: 2019年12月17日

FRENS(ふれんず)のサムです。

今回のコラムでは、FRENSの代表・小野アンリへのインタビューの内容を掲載します。

第1回ではLGBTの子どもたちが置かれている状況について、第2回では子どもを尊重することについて、そして第3回では身近にいるLGBTの子どものためにできることについて聞きました。

まずは第1回です!


はじめに

――今日はよろしくお願いします。最初に、自己紹介をお願いします。

小野 LGBTQ+の子ども・若者をサポートする任意団体「FRENS」の代表をしています、小野アンリです。福岡県を中心に活動しています。

FRENSの中では特に、LGBTQ+の子ども・若者のメンターや講演活動を担当しています。メンターというのは、LGBTQ+の子ども・若者と直接会ってお話をしたり、日常的に連絡をとったり、その子に何か困ったことがあれば一緒に考えたり、周りの大人の協力が必要なときは周りの大人の人たちと話をしたりもしています。その子を育てている人と話をすることもあるし、先生たちと話をすることもあります。

具体的に、「この子への対応をどうしていきましょうか」という研修をさせていただいたり、「ある学校ではこんな取り組みがありました」と情報提供をさせていただいたりもしています。

LGBTの子どもたちが日々踏んでいる「小石」

――LGBTQ+の子どもたちがいまどんな状況にあるのか、聞かせてください。

小野 最近は、日本のLGBTQ+の子どもたちに関する調査の中で、様々なデータで見る生きづらさも見えてきていますが、今回はデータでは感じることが難しい部分に関してもお伝えできたらと思っています。


 
ただ、子どもたちがいまどんな状況にあるのかというのは、性のあり方(性的指向や性自認)によっても違うし、人それぞれの部分もあるので、一概に「こうです」って言ってしまうことのリスクも感じているんですが、例えば、LGBTQ+に関する肯定的な情報に触れる機会が少ないことが挙げられると思います。

LGBTQ+について知識を得るようなきっかけがあまり無いまま成長して、自分の性のあり方について何となく感じていながらも「これってなんだろう?」ってわからない。

そして、知識を得られなかったとしても、何も知らないわけではなくて、性の多様性について否定的・攻撃的な情報にはさらされてしまい、「自分は自分で、これでいいんだ」って思えるような環境になく、そのせいで自己肯定感が低くなってしまったり、性のあり方も含めて、気楽に話せる相手が身近に見つけられなかったり、何か困っていること・しんどいことがあるときにも、「それを話したら相手はすごく嫌な態度を取るかもしれない」ってこわくて相談しづらかったりっていうことも起こりがちだと思います。

――「レズビアンの生徒が困ること」「トランスジェンダーの生徒が困ること」などセクシュアリティやジェンダーによって異なる困りごとや、人それぞれの問題がある一方で、LGBTQ+一般に言えること・語られる必要があることも存在するということですね。その1つが、先ほどおっしゃった「LGBTQ+に関する肯定的な情報が得られないこと」。

小野 そうですね。教職員の研修でお話させていただくときに、「LGBTQ+の子どもたちはどんなことが困っていると思いますか?」と聞いてみると、そこで挙がるのは「トイレ」「着替え」「宿泊研修」「プール」が多いです。でもそれって、トランスジェンダーの子どもたちや、Xジェンダー、性自認におけるクエスチョニングなどの子どもたちが特に多くぶつかる問題。学校の中の性別で分けられるシステムについての話(だけ)になっているのかなあと思います。

そういう問題は見つけやすいだろうと思うんですけど、LGBTQ+の子どもたちが抱えている問題はもっと日常のいろいろな場面にあります

これはLGBTQ+の子どもたちの状況に関する例え話なのですが、LGBTQ+の子どもたちは廊下を裸足で歩いていて、その廊下には小石がいくつも落ちていて歩きづらい。1日に何個も小石を踏んだり、小石の中に大きな石が混じっていてそれを踏んでめっちゃ痛かったり、あるいはガラスの破片が落ちていて足を切っちゃったりすることもある。

大きな石やガラスの破片は認識しやすくて、言葉にしやすい。もちろんそれはそれで重大なことだけど、一方で、1日の中で何個も踏む小石によって、日常的なストレスがかかってしまったり、ずっと踏んでいるから問題視しづらくなっていたり、小石のない道を歩いたことがないから、いまよりもマシな状況で生活できるイメージがわきづらかったりする。そんなことを子どもたちの話を聴いているとイメージします。

――文科省の通知でも、トイレとか着替えとか、学校の中の性別で分けられるシステムについて取り扱う部分がかなり目立ちますよね。それも大事だけど、廊下に落ちているたくさんの小石についても考える必要がありますね。

小野 日常の中のいろいろな場面にあるのは、性のあり方(性的指向や性自認)が「その人がどのような人間であるのか」という根っこの部分に深く関係しているからです。なのでそれについて話せない、隠さなきゃいけないというのは、いろんな会話の中で「うそをつかなきゃいけない」「はぐらかさなきゃいけない」「会話をさけていかなきゃいけない」など、それ自体もストレスだし、人間関係を深めていくときのつまずきを感じることにもつながります。

子どものSOS発信をつぶしてしまいかねない要注意ワード10

――なるほど。そのような状況にあるLGBTQ+の子どもたちにとって、周りの大人が果たす役割って大きいのではないかと思います。アンリさんが作成された教職員向けの研修資料には、「子どものSOS発信をつぶしてしまいかねない要注意ワード10」というものがありますね。

小野 これを読んでひっかかりを感じてほしいと思って、資料にのせています。つい言ってしまうと思うんですよね。大体のいまの大人は子どもの頃にこのような言葉を言われてきているから、「そういうもんなんだ」と受け止めていて、ついフレーズとして発してしまうかもしれない。そこで、「あ!」って、ひっかかりを感じられることで、別の言葉を選ぶことができるようになっていってほしいなあという思いで載せています。

――これを言われたら相談したくなくなるというか、相談できなくなってしまうような言葉ですよね。

小野 その子がかかえている問題や悩みを、「まわりの人がどう評価するか」ではなくて「その子がどう感じているのか」というのが一番大事で、それは本人にしかわからないだろうなあって思います。

子どもたちが、その日その日を安心な気持ちで過ごしていくことが、その後の人生にとってもすごく大きな影響を持っていると思うから、いつも子どもが尊重されること、「今日、安心して過ごせること」を大事に思っています。

次回へ続く(全3回)