FRENSスタッフ

2019年11月8日

トランスジェンダーの子どもと向き合うために大切なことは?『小野アンリインタビュー』②

最終更新: 2019年12月17日

前回に引き続き、FRENSの代表・小野アンリへのインタビューです。

第2回では、子どもたちのことをいかに尊重できるか、そしてその観点からいかに子どものカミングアウトを受け止められるか、ということについて聞きました


「好きなものなあに?」

小野 生まれたときにつけられた性別と性自認がちがっている子や、生まれたときにつけられた性別がしっくりきていない子、性自認はわからないけどしっくりきてない子、生まれたときにつけられた性別と違う性別表現をする子についてお話したいです。特に、就学前から10歳ぐらいの幼少期の子どもたちについて考えてみたいと思います。

「好きなものなあに?」っていうワークを研修でやることがあります。2人1組になって、好きなもの3つについてお話するワークです。片方の人が「好きな遊び」「好きな焼き鳥の串」「好きな文房具」についてそれぞれ話をして、もう片方の人はある決められたリアクションだけを取ります。それは、「えー、そんなの好きなんておかしいよ。気持ち悪い」「そんなの好きだなんて、みんなに知られたらいじめられるからやめたほうがいいよ」「へー…そうなんだ…」の3つ。

ワークの後に、リアクションされた時どう感じたかを尋ねると「否定されて悲しかった」「話した内容だけでなく、だんだん自分のすべてを否定されているように感じた」「腹が立った」「もう話したくないと思った」というような声が返ってきます。

このワークは、あるお子さんとの出会いをきっかけに作って、始めました。

その子はそのとき5歳で、保護者の人と一緒に話をしたりもしました。保育園でどんな風に過ごしているかなど聞いていると、「これはマズい」と思った。

その子は生まれたときにつけられた性別が男の子で、性別表現が一般的には女の子っぽいとされるものが好きだったり、女の子っぽい仕草をしたりする子で、プリキュアが好きでプリキュアのハンカチを保育園に持っていったところ、友達から「えー、なんで男なのにプリキュアのハンカチなんて持っているの。気持ち悪い」「おかしいよ」と言われたり、家族から「プリキュアなんて好きだったら、小学校入ったらいじめられるからやめなさい」と言われたりしていました。また、保育園では他の保護者からなんとなく冷ややかに見られたり、フェミニンな仕草に対して否定はせずとも「へー、そういう走り方なんだね」などとコメントされたりしていました。

一番マズいと思ったのは、その状況を、まわりの大人はみんな知っているのに、誰もよくないと思っていなかったこと。その状況がその子の心身の発達にどのような影響を及ぼすのか、たぶん誰も考えていないことです。

それで、自分が何を好きなのかっていうことを否定されたりいちいちコメントされたりするとどんな気持ちになるのかっていうことを体験するワークを作りました。いつも自分のことを大切に思ってくれているはずの友達や家族、先生などからちょいちょい否定されるっていうのは、その子の心身の発達に影響を及ぼしてしまうと思います。

その子の性のあり方がその後どうなるかっていうのはわからないけれど、少なくとも大人にとって・社会にとって都合の良いように変わるわけではないから、その日のその子が「まるごとオッケー」って周りから伝えられて、自分でもそう思って過ごしていけるっていうことがその子の人生にとってすごく重要なんじゃないかって思います。

DSK問題

小野 カミングアウトを受けた後に、その子を尊重するために大切なこととして、もう1つ。「DSK」をやめる、ということがあります。

――DSKとはなんですか?

小野 D=どうしても、S=出生時の性別で扱わなければ、K=気が済まない症候群。トランスの子が、カミングアウトしたあとも出生時の性別で扱われ続けてしまうことについて、「ほんとにダメ」「やめよう」という意味で使っています。

同じようにして、「どうしても異性愛が絶対だと思ってしまう症候群」とかもありそうですね。

――その体験あります。カミングアウトしたのにリアクションが一切なくて、その後も異性愛者として扱われ続けるとか。どうしても認めたくないんですかね。

小野 (マンガ『きのう何食べた?』の)シロさんのお父さんがそのようなことを話す場面がありましたね。男性のパートナーと一緒に暮らしているゲイの息子に対して、「それでお前は、どんな女なら大丈夫なんだ?」って質問する、みたいな。

――DSKって、学校の中で特に多いのかなあという気がするんですけれど。

小野 学校の中でもありますし、保護者からもあります。

――そうなんですか。学校って、男女は分けなきゃいけないんだとか、そうしないと風紀が乱れるとか、なんかそういう風土みたいなのってあるのかなと思って。いまだに名簿が男女で分けられている学校もありますし。

小野 それはありますね。DSKは、先生と生徒の1対1で話す時や、ある生徒を巡ってのケース会議でトランス男性(性自認が男性のトランスジェンダー)のことをずっと「彼女は」「彼女は」って言っていたりとか、「さん」「くん」呼び分けをしているときにその子の性自認とは違うほうで呼んじゃったりとか、そういう事象に対して、それを指摘し合ったり自分で意識したりするのに使うことを提唱しています。

カミングアウトしてくれた子どもを尊重するために

――それって、本人にとっては「小石」どころじゃない大きな問題でしょうけれど、まだ十分に問題化されていないという意味で「小石」っていうことですよね。だからこそDSKっていう言葉をつくった。

小野 例えば、ずっと男の子だと思って育ててきた子が、自分は女の子だと思って女の子として生活していきたいんだって言ったときに、自分にとってのその子のとらえ方を「(この子は)女の子なんだ」っていう風に変えるのは難しいということもあるかもしれません。

そうだとしても、とりあえずその子が「これじゃない」って思うような(男の子としての)あつかい方をやめてみる――「息子」と言わずに「子ども」と言ったりとか、もしもその子の名前が男の子っぽいと思われるようなものだったら別の呼び方をいっしょに考えてみるとか――。

認識を変えることが難しかったとしても、出てくる言葉をまず変えてみる。そうすると、その子にとっての安心な気持ちが増えていって、尊重してもらえているって思えて、信頼感が深まっていくだろうと思います。

カミングアウトっていろんな意味があるけれど、それまで本来の自分というか、感じていることを話せずに人間関係をもってきたのを、本当は自分が何を感じているのかを伝えるようにするっていう意味もある。それを伝えられる関係になって、もっと関係を深めていきたいっていう意味合いのカミングアウト。

それを受けた側は、知らずに嫌な思いをさせてしまっていたこと、「小石」を置いてしまっていたことに気づいて「もう『小石』は置かないぞ」って思ってもらえたらいいのかなって思います。DSKも含めて。

――本当にそう思います。カミングアウトを受けたからには、間違いやそれまで知らなかったことに気づいたからには、行動を変えてほしいです。

小野 あとDSKが難しいなって思うのは、本人が「嫌だなあ」って感じているときに、「それは嫌なんだ」って言いづらいことが多いんだろうなということです。子どもたちと話していると、そういう印象があります。

――どういうことですか?

小野 例えば、トランス女子(性自認が女の子のトランスジェンダー)が先生に、「自分は女の子だと感じていて、女の子として生活したいです。」と伝えたとします。それで、先生は「話してくれてありがとう。いっしょに考えていこう。」と言ってくれて、でもその子のことを「◯◯くん」と呼び続けてしまう。そういうことは、とてもよく起こってしまうことなのですが、本人が「◯◯くんと呼ばれるのはいやだ。」と思いながら、でもそれを伝えられないというのもよくあります。

「◯◯くんって呼ばれるのは嫌なんです」「違う呼び方にしてほしい」って伝えると、もっと良くないことが起こるかもしれないって(子どもたちは)考えてしまうことがあります。

「男にしか見えないんだから『さん』とか呼べないよ」って(先生から)思われているのかなあ」とか、「やっぱり私って男にしか見えないよね」「もっと女の子っぽくならないと女の子扱いされないんだ」「手術とかを受けて女の子の体にならないと男の子扱いされ続けるのかな」というようなことを考えて何も言えなくなったりすることもあります。。そもそもその子は、性自認の性別であつかわれた経験がほとんどなくて、だから、「女の子としてあつかってほしい」を伝えること自体がとても難しいこともあります

その子を一番大切に思っていて、その子の話を一番聞いてくれている大人の人がDSKをやめられないっていう問題を間近で見てきました。だから、DSK減らしていって、いつかやめられるようになったらいいなって思います。

次回へ続く(全3回)